かとっぽ
ガアタローと荒木倫左衛門 Home
昔、若松の奥山にガアタローがいて、里人が山に行けば遠くの
方で大木を倒すような音や、大岩をころがすような音をさせ、あ
る時は人まねの声を出したっして、びっくりさせることがあった。
また道行く人がまどわされて、山の中を散々歩きまわりさまよっ
て、とんでもない苦労をした者もあった。またある時は子供が一
人いなくなっり家族の者や里人が心配して山さが
しをする事になり、鐘や太鼓をたたいて多勢で手
分けしてさがし廻ったところ、とある山の中につ
くねんとすわっていたということもあった。それ
からその辺の山を隠し山とよぶようになったとい
う。 ガアタローはまた、時々谷川(川の名)附
近にもあらわれ出て、道行く人に相撲をとろうとむかってきて、
散々な目にあわせるという事もあった。 その頃、若松に智、仁
、勇ともにすぐれた荒木倫左衛門という豪の者がいて、「そのガ
アタローは俺が行って生捕りにしてやろう」と、ある夜谷川のほ
とりに出かけて行ったところ、噂にたがわず、しばらくすると例
のガアタローがあらわれ出て、相撲をとろうとむかってきた。
倫左衛門は何をこしゃくなとばかりその腕をひっかんでねじ伏
せたので、ガアタローは、思いがけないその豪力に驚いて逃げよ
うとしたが、倫左衛門はそうはさせじとなおも力をこめて押えこ
めば、ガアタローはますますあわてもがいて、遂にはその腕をも
ぎ切って逃げ去ってしまった。生捕りに失敗した倫左衛門は、仕
方なくその腕だけ持って帰って、自宅の土間に吊るしておいた。
ところがそれから毎晩そのガアタローが倫左衛門の邸の前にやっ
て釆て、家の外から「腕がなくて不自由しておりますので、どう
かその腕を返して下さい」と悲しい声で哀願するので、倫左衛門
もだんだん可愛想に思われ、「これから里人に決していたずらを
しないという誓文 ができれば返してやろう」と
いうと、ガアタローは大変喜 こんでそれなら
「旅手の峠に大きな誓文石を立てて、その石が朽
ちてなくなるまで決して今までのようないたずら
はしません」と誓文したのであるが、倫左衛門は
どうしたこ とか、どうしてもガアタローの腕を
渡さなかった。その腕は永らく倫左衛門宅に保存されてあったが、
何時頃か判らないが、有川に前述の荒木家の親戚に板屋という家
があって、その板屋にかしたそうだが、その後その腕がどどうな
ったかわからない。 前述旅手の峠に誓文石というのが見うけら
れたが、道路工事のためその峠も切り崩されたので、その石はど
うなったかわからない。