かとっぽ
ダンポ岩
昔、立串に胆の太さでは、遠く浪花(大阪)まで知られていたお
んじがいた。おんじは無塩舟をしたて商いをしていたが、どんなし
けの時でも舟を出すため、男衆はおんじの舟に乗るのをいやがって
いたそうな。ある時、しけにあい、さすがのおんじの舟も、帆が折
れ、舵まで折れて命からがらやっとのことで大浦の浜へたどりつい
た。一夜が明け、しけもおさまり、生きていたことをよろこんでい
ると、大浦の地蔵様のあたりで、村人たちがさわいでいるのに気が
付いた。おんじは、何があったのかとたずねると、子どもが河童が
くしに会い、地蔵様にお参りすると、不思議なことに、地蔵様が口
をきき「モチをそなえよ」とおつげがあり、村中でモチをつき、そ
なえたが、朝になってモチが消え、子どもは二日たっても三日たっ
ても帰えらず、思案にあまって相談しているとのことだった。
おんじはこれをきき、すぐに河童のいたずらと気
づきオイにまかせと、出かけていった。おんじは浜
のダンポ岩に来ると、岩にむかっておらんだ。「誰
とすもうばしても、勝つばかりで面白うなかどこか
に強い相手はいないものか」しばらくすると岩のか
げから、一匹の河童が現れた。「すもうをしたいの
は、お前か、オイが相手をしてるぞ」しかしおんじは河童を見なが
ら西と東に別れたおんじと河童。軍配かえってハッキョイノコッタ
と思いきや、ぐっと低くかまえた河童にむか「お前のようなチビと
は、すもうは出来ん」と言ってじっと沖を眺めておった。河童は負
けじと「オイはチピでも強か。福江のがっぽにも勝った」 しきり
に誘う河童におんじは言った。「有川や大曽のがっぽは弱かったぞ。
お前はそれより強いとか」河
童は得意げな顔で「オイは五
島のがっぽの大関じゃ」と胸
をそらして答えたそうな。
「よし、そいではオイがどれ
だけ強いかためしてやるぞ」
「合点。衆知って、おんじは
言った。「おい、がっぼよ、
お前は礼儀を知らんな。すも
うは礼儀を重んじるものだ。
先ず礼をすることから始まるとぞ」そしておんじは深々と頭を
下げて見せた。 河童もそれを見て、深々と頭を下げたが、頭の
皿から水がこぼれた。おじんは河童に組みつき、腕をぬいた。
夜になり、河童はおんじの家に現れて、子どもは返すから、腕を
返してくれと泣きついた。そこでおんじは、子どもを返すだけで
なく、ダンポ岩がすりへるまで、いたずらをせんのなら返してや
るといったそうな。 それからというものは、昼も夜も、ダンポ
岩のてっぺんで、岩をこする河童の姿が見られたが、今でも大き
なダンポ岩は、波を受けながら、そそり立っている。
(以上の河童の民話は、矢野植己氏著“がっぱ”から引用)