かとっぽ

     災難     


 昔、北魚日の小串にすえという女の子がいた。すえは何をしても

人に劣り、のろまな子と云われていた。 ある日、村の子どもたち

は、小串鼻までかけっこをしたが、びりはやはりすえだった。しか

し、そんなすえにもたった一つ、人にほめられることがあった。村

一番の器量良しだった。 その頃、江川に一匹の河童が住んでいた。

そんなある日、川の辺りを一人の娘が歩いて来るのが目についた。

 すると山のうぐいすが「ほんとにみじょか。ほんとにみじ

ょか」と鳴き、風にゆれる河原の草も「星のかけらが地に落

ちて、そこで生れたのがこの子だヨ」とささやいた。 河童

は、ササのかげですえを見ていたが「あやつのどこがいい。

オイの隣りの村の友達は、カラス貝のような口ばしといい、蛤のよう

な頭の皿といい、よっぽど美しか。それにくらべて、あやつはなんじ

や。頭に皿はないし、耳はまるで桜貝じや。ロばしもないし、まるで

ぐみの実のようだ」とへらずロをたたいていた。 ある日のこと、小

雨の中、河童は河原を歩いていた。どうしたはずみか、石につまづ

き、足首を痛めてしまった。道にうずくまって痛めた足首をさすって

いると、そこにすえが通りかかった。「おや、がっぱどん、どげんし

たとネ」「何でもなか。早よう行け」オイは河童の親分だ.女子に弱

身はみせられんと、痛みをこらえて二歩、三歩と歩いたが、あまりの

痛さにすってんころりん。「足ば痛めとるとネ」と、すえは、着物の

抽を引きちぎり、添え木をしながら「曽根まで行けば、温泉があるけ

ん、そこまで一緒に行ったげる」と河童に肩をかして歩いた。 

それから数日後、すえが提灯をさげて夜道を歩いていると、ひ

ょこんと河童が現れて、前に後につきまとい、オイと遊べと誘

ったそうな。 すえは驚き駆け出したが、河童はつきまとい、

提灯に近寄ると、長い舌を出して火を消そうとした。すえは提

灯を投げつけた。河童は鼻に大ヤケド。それでもこりずに、鼻のヤケ

ドによもぎをのせながら、すえの来るのを待っておった。 ある晴れ

た日、すえはカゴを手にしてシイの実とりに山へ出かけた。河童は、

河原のすみで、すえが通るのを見ていたが、だまってあとをつけてい

った。 すえは、大きなシイの木の下にカゴを置き、何度もすべり落

ちながら、やっと技につかまってシイの実をとっていた。河童は、落

ちたシイの実をかじりながら、木の上のすえをながめていたが、その

とき、すえは足をすべらし、河童の頭の上に落ちて釆た。河童の目玉

はとび出して、頭の皿にはヒビが入り、そのまま気絶したそうな。そ

れからというものは、頭の皿のヒビのため、寝こんでしまい、とうと

う死んでしもうたそうな。

                   新魚目町郷土史より