かとっぽ

         


 昔々、榎津に一軒の造り酒屋があった。そこの亭主は利口者で、

力がとても強かった。その頃、榎津と丸尾の境の坂瀬川に、一匹の

河童が住んでおった。いたずらもので、村の子どもたちが、川で遊

んでいると、急に川から顔を出して「キュー」と叫び、驚いて逃げ

まわる子どもたちを見て笑ったり、馬を川で洗っていると、その馬

を川の中に引きずりこんだりして、村人を困らせていた。

 ある暖い日のこと、河童は大きな

岩かげで、うつらうつらと陽なたぼ

っこをしておった。すると、川にか

かった土橋を渡る村の若い衆の話し

がきこえてきた。「榎津の酒屋の亭

主は、ほんに力持ちばい。石ウスを

両手に下げて、浦桑まで走ったそう

じや」「ほんとにあの亭主どんは、

日本一の力持もちたい」「河童がど

げん力が強かばって、勝ち目なか」

 これをきいた河童は、真っ赤な顔

をして、皿の水まで音を立て、わき立てたそうな。その白から河童

は、酒屋の亭主が川を渡るのを、じっと待っておった。 それとは

知らない酒屋の亭主は、ある日、とうとう橋の上にさしかかった。

渡り終ろうとしたとたん、川の水が急に盛り上がり、河童が姿をあ

らした。「オイと相撲ばとれ、オイに勝たねばここは通さん」亭主

は、どうしても通らなければいけないので、しぶしぶ応じた。河童

が組みついて来たが、亭主は、河童の頭を片手でかかえ、胸の下に

組み入れた。すると河童の皿の水は、橋の上にこぼれ、見る見るう

ちに力ぬがけた河童は、座りこんでしまった。「勝った証拠に、お

前の腕ばもろうて行く」と、亭主は河童の右腕せもぎとって帰った。

それからというものは、毎日のように姿を見せ

「もういたずらはせんけん、オイの腕ば返して

くれろ」と頼んでおった。かわいそうに思った

亭主は、河童を、風の浜までつれて行き、磯の

小石をひらい「この石がくさるまで、いたずら

はすんな」と約束して、川のほとりにホコラを造り、その石を安置

して、腕を返してやった。 しかし、夜になると河童があらわれ

「早くくされョ」といって、石に小便をかけていたそうな。石は、

今でもちゃんとあると云うことじゃ。

                       新魚目町郷土史より