かとっぽ

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 榎津の村の中に石造りの大きな井戸がある。昔は、朝早くから村

人が集まって、井戸ばた会議が賑かに行われていた。静かになった

ある日の夕方、よしあんちという若者が通りかかった。あんちは井

戸に行き、水を飲んだが、ふと川辺に目をやると、シダの葉が、風

もないのにゆれていた。よく見ると、一匹の河童が、しきりにシダ

の葉を引きちぎろうとしていた。あんちは、井戸辺に身をかくし、

じっと見ていたが、河童は気付かずに、取ったシダの葉で、頭を

二、三度なぜたと思うと、カスリ姿の娘に化けて、歩いていった。

 それから二、三日にして、あんちの家で法事があ

り、準備も終って、お寺の和尚さんが来るのを待って

いた。 「ごめん下さい」表で子どもの声がした。

「和尚さんは、急な用事で少しおくれるとのことです」

お寺の小僧のお使いに、どうもご苦労さんと、法事の

モチを持たせて帰した。すると入れちがいに和尚さん

が現れた。「おや、おくれるのではないですか」「いや、わしは知

らん」「さっき小僧さんがお使いに来て」「そいで」「モチば、つ

つんで帰したとヨ」 そこまで話して、みんなは思い当った。河童

に一杯喰わされたと大笑いした。 それから何日か経った。ある日

の夕方、川辺で河童が夕焼け空を見ていた。あんちは、シダの葉を

一枚頭にのせ、そしらぬ顔で近づいた。河童は、あんちに気ずき、

笑いながら、頭を指さした。「お前は、それで化けたつもりか。

どこのがっぽか」「オイは、大曽のがっぽぞい」「大曽のやから

は、駄目じやのう」あんちはすました顔で云った。

「なにをぬかすか。そんならオイと化けくらべばすで

明日は、浦桑の弘法様がある。オイはお供えのモチに

化けるけん、お前は法城様に化けてみよ」 あんちと

河童は、二人で化っこをすることに決めた。一夜明け

れば、年に一度の弘法様で、浦桑一帯は大にぎわい。

法城様に化けた河童、何くわぬ顔で仏様に近ずき、ひ

よいと前を見ると、うまそうなモチがたくさんならんでいた。「こ

やつも、うまく化けたわい」と心の中で感心したが、大曽の河童は

知恵なしじや。モチは河童の大好物、おまけにモチでは手も足も出

せん。オイに喰われてあの世行きとばかり、モチをつかんで、かぶ

りついた。 化けたモチなら「ギャー」と叫ぶと思ったが、何の反

応もなく、そのままのみこんだ。 弘法様の法力か、とたんに河童

の神通力は消え去り、もとの姿にもどった。驚き、怒った村人は、

河童を追い回し、ふくろだたきにした。命からがら逃げ帰った河童

は、甲羅の傷をなぜながら、ポロポロ泣いていたそうだ。

                        新魚目町郷土史より