かとっぽ

     巡礼と貧しい老夫婦     Home


 昔、ある村に一人の巡礼がやってきた。

 ずーっと歩いてきて疲れたので、どこか泊めてくれる所をさがした。

 「ご免下さい。旅の者ですが一晩泊めて下さいませんか?」と頼ん

で回った。でもみんな四、五月で田植えの大変忙しい時期だったので、

誰も泊めてくれる人がいなかった。

 日も暮れて外は真っ暗になったので困ってしまい、あたりを見渡し

てみると畑の中に小さな小屋が立っていて中から明かりが漏れている

ので、早速行ってみると、今にも壊れそうなぼろ家であった。

 「ご免下さい。ご免下さい。」と戸を開け入ってみると、おじいさ

んとおはあさんがいた。「すみまん、私は旅の者ですが、今夜一晩泊

めて戴けないでしょうか?」と頼むと、おじいさん達は、「どうぞ、

どうぞ。泊まるとやよかばってん、ご覧のとおり貧乏暮らしばしてお

りますけん布団もなかとですよ。」と言うと、巡礼は、「いいえ、い

いえ、布団も何も要りません。ただ一晩泊まらしてもらえばそれで有

難いのです。」 「あんたがそれでもよかっち言うとなら、どうぞ、

どうぞ。」と、おじいさん達は、温かくこの巡礼を泊めてあげた。

 明くる朝、巡礼はおじいさん二人に、「お世話いただき、本当に有

難うございました。」とお礼を言ってから、「何かお礼をしたいので

すが、何が一番欲しいですか?」とたずねると、「いいえ、いいえ、

私どんは、な−んも欲しかもんはなかとです。でも、もう一ペんよか

けん、もとんごて若うなろうごちゃんなあ。」と言うと、巡礼は白い

手拭を渡しながら、「では若くしてあげますから、たらいに水を汲ん

で顔を洗い、この手拭いで顔を拭きなさい。」と言って旅に出ていっ

た。 おじいさんたちは、「ほんなこっじゃろか?」と思いながら、

言われた通り顔を洗い、もらった手拭で顔を拭くと、あら不思議や、

忽ち元のように若い顔になったということである。

            有川町郷土誌より