かとっぽ
うぐいす娘 Home
昔、阿瀬津、鯛ノ浦の方から有川に行く道の峠に一軒の茶店があ
り、店先には色とりどりの美味そうなお菓子が並べてあった。 そ
の店に、毎日のようにお菓子を買いにくる、若くて、美しい娘がお
りました。「あん娘さんや、どこんもんな?いっでん黄色か着物ば
着ちょっなあ。そっに声も澄んできれかねえ。」と、村で評判にな
っていました。そこで店の主人が「娘さんどっから来っどか、探っ
た人にや、お金と、うどんば一箱やる。」と言ったところ、近所の
若者が、「ぜひおっに調べさせっくれんか。」と言うと、朝早くか
ら店の隅に隠れ、娘の現れるのを待っていました。
しばらくすると、何時ものように娘が現れてお菓子を買うと、山
の方へスタスタと歩いて行きました。若者は娘の後をつけました。
すると、山の頂上近くに、白い梅の花が一杯に咲いた林に囲まれた
大きな家があり、家のそばには白壁の蔵が二つ建っていました。
「わ−つ!こがん太か家のあるち知らんやったなあ。」と思いなが
ら、し−んと静まり返った家に向かって、「ごめん下さい、も一し
ー。」と声をかけました。すると、先程の娘が出てきて、「よくお
いで下さいました。」と、にこにこしながら座敷に上げてくれまし
た。「私はここで一人で暮らしています。お気に召したら、あなた
様も一緒に暮らして下さい。」と言うので、若者は喜んで承知しま
した。しばらくして娘は、「私はちょつと出掛けてきますので、し
ばらく留守をお願いします。それから、あの−、東と西の蔵は決し
て開けないで下さい。」と言うと、家を出ていきました。見るなと
言われたのに若者は、「きっと珍しか宝もんの入っちょつどかもし
れん。どうせ一緒に住むとやっけん。」と思って、とうとう蔵の戸
を開けてしまいました。その途端、裏の梅林の中から悲しそうな鶯
の声が一声聞こえてきたかと思うと、二つの蔵も、大きな家も、そ
れに梅林も消えてしまい、広い野原にただ、若者が立っているだけ
でした。 美しい娘ほ、きっと鶯の化身だったのでしょう。