かとっぽ
白鯨 Home
昔、有川には鯨が沢山とれていて、鯨組は十組もあり大変賑わっ
ていて、鯨に関わって生活していた人ほ六百人近くもいたといわれ
ている。 この鯨組を創った人は江口甚左エ門という人で、有川の
総名主であった。有川の為に色々な良いことをしたので
村人から、「旦那さん、 旦那さん」と尊敬されていた。
ある時、旦那さんは旅に出ることに なったので、何時
もより早めに寝ることにした。布団に入って暫くウトウトしている
と、目の前にパーッと青い海が広がり、海の向こうから何か近付い
てくる。「なんじやろかい…‥」と目を見開いたとき、頭のてっペ
んから尻尾の先まで全身真っ白な大きい鯨が、旦那さんのすぐ目の
前まで釆て、明日、私は子供を連れて福江島の大宝という所へ御参
りに行きます。その時、有川の沖をどうか無事に通して下さい。御
参りがすんで帰るときは、蹴まえても結構です。」と言ぅと消えて
しまった。 朝起きた旦那さんは旅に出る支度で忙しく、ゆうべの
白い鯨のことをすっかり忘れていた。そし
てそのまま旅に出てしまった。 その日の
昼頃、野首の山見から煙が上がり、「鯨ん
来たぞー、鯨んとるっぞ−」という声と共
に、各鯨組が船を漕ぎ出し、鯨を捕りに繰
出した。ちょうど真っ白な鯨が有川の沖を通るところであった。船
足の速い勢子船で鯨に近付いて、羽差が銛を打ち込み或いは剣で突
いては引き抜き、突いては引抜く等して漸く白鯨を仕留め、横浦の
納屋浜まで曳き込んで解剖した。 旦那さんは、旅から帰って白鯨
のことを聞くと、「ああ、旅に出るち忙しくて、みんなに白鯨のこ
とを話すのは忘れちょつたよ。鯨にや悪っがこっばしたなぁ。」と
思った旦那さんほ、今までに捕った鯨や白鯨を供養するため、供養
碑を建てて、鯨の霊を慰めたという。