かとっぽ

      夫の借り知恵         Home


 昔、ある村に、若い夫婦が住んでいた。 実は若いのに、頭が半分禿げて

いて、妻は、鼻がとれて無かった。

 夫は利口な男ではなかったが正直で、煙草入れを作るのが大変上手だっ

た。  結婚して間もない或る日のこと、二人で食事をしていた時、妻が夫

の顔をしげしげと見つめながら、「こん山にゃ、松ん木の生えちょらんとが

不思議かなあ。」 夫は、妻がどんな意味で言っているのか分からなかった

が「ふんふん」とあいづちをうっていた。それから後も妻は、食事の度に同

じことを繰り返し口にした。 実は何のことかその意味を聞こうと思ったが、

夫の沽券に関わることと考え、わかったふりをして同じように相槌をうって

聞き流していた。

 そのうち夫はおじさんの家に行く機会があり、「おじさん、私にやどうして

も分らんこつのあっとやばってん、どうか教えてくれんかな。その代わり、

おじさんに煙草入れば作ってやっでん。」と言ってから、家で妻の言ったこ

とを詳しく話した。それを聞いて、「うん、そんならそん時にやこがん言え

ばよか。『こん山にや、椿やつつじの生えちよっばってん、花ん一つも咲い

ちょらんとが不思議かなあ。』ち言え。」と教えた。

 男はよい事を聞いたと、いそいそと家に帰った。 夕食時になって、妻が

何時ものように夫の顔を見ながら、「こん山に松の木の生えちょらんとや

不思議かなあ。」と言ったので、夫は早速おじさんから教わった通り、

「それもそうばってん、こん山にや、椿やつつじの生えちょつどに、花ん

なかとや不思議かねI。」と言った。

 それから妻は、二度と夫の禿げのことを口にすることほなかったという。

                                     有川町郷土史より