かとっぽ 

     カッパの大喧嘩         Home  


 青方郷東天神の釣道川を渡って旧県道が大きくカーブしている堤には、

その昔、水田用の溜池があったそうだが、青方から魚目や有川に行く道

は、この溜池沿いから山頂の峠に向かって歩き、浦桑の掘切観音様の横

に出てから、それぞれ魚目や有川に行ったそうである。

                          

この青方村と魚目村の境界にある峠は、今から六百年前頃 (室町時代)に

は「鵜の声峠」と呼ばれていたそうだが、当時、祖父君神社や掘切観音付

近までが入江となっていた、浦桑湾では、鯨や鮪や鰯などが獲れており、ま

た西側に面する青方神社下まで入江となっていた青方湾では鰯や鯵や鮪な

どが獲れていたそうだ。 そのために、東の浦桑湾と西の青方湾が見渡せる

峠の松の木に止まっていた鵜の鳥の群は、浦桑湾に魚の大群が押し寄せる

と、浦桑に向かって鳴きながら餉を求めて飛び立ち、青方湾に魚の大群が押

し寄せると、青方に向かって飛び立っていたので、「鵜の声峠」と呼ばれてい

たそうだが、これからの話は、この峠が「鵜の声峠」と呼ばれていた昔、むか

しの話である。 ある年、青方村や魚目村に長い間、雨が降らず、何か月も日

照りが続いたために農作物は枯れてしまい、田植も芋植も出来ずに村人は因

っていた時のことである。

 カッパは、そのようなことには無頓着(関心が無いこと)であるので、青方の

カッパと魚目のカッパが、この「鵜の声峠」に集り、魚目のカッパはこの峠を通

る青方の者を騙したり、青方のカッパは魚目の者にいたずらをして、ケッ、ケッ!

とか、ギェッ!ギェッ!と鳴いて喜んでいたが、最後にはそのいたずらがエスカ

レートして青方のカッパと魚目のカッパが大喧嘩になったのであった。

 喧嘩になると勝たねばならないので、双方とも、三十匹余りのカッパが集

って取組んだり、木の枝を折って叩き合ったりする大喧嘩となったが、その

ために頭の皿の水がこぽれてしまうと、カッパは力が無くなるので、魚目の

カッパは浦桑の祖父君神社の横を流れる宮の川の水を浴びに行き、青方の

カッパは堤の溜池や釣道川の水を浴びに行って、喧嘩は二、三日続いたそ

うだ。 その結果、カッパの何匹かは、怪我したり死んだりしたそうだが、峠

付近の木の枝は喧嘩のために折られて、杉の木も松の木も枯れ果ててしま

い、宮の川の水も釣道川の水も一滴の水がなくなってしまったので、あげ

の果ては、青方のカッパも魚目のカッパも体がだんだん乾いてしまったため

に、手足を動かすことが出来なくなり、目だけがギョロ、ギョロとなって動け

ないようになったのであった。 そこで、青方のカッパと魚目のカッパは、

「何のために喧嘩をしたのかな。馬鹿な喧嘩はしなければよかったのに。」

と後悔したそうだが、その時、空に横たわっていた雲の上から、 「干バツも

知らずに喧嘩をした馬鹿者共のカッパよ、よく聞け!俺様は雨を降らすこと

が出来る雷様であるぞ! お前達は、自分のことしか考えずに人間様を騙し

たり山や田畑を荒しているので、当分、雨は降らさないつもりでいるがそれ

でよいか! ただし、これから人間様を騙したりいたずらもせず、お前達も喧

嘩はしないと誓うならば、雨を降らせてもよいと思っているがどうじゃ!」 と

大声が聞こえて来たので、 「雷様よ!もう悪いことも喧嘩もしないから雨を

降らして助けて下され!」と青方のカッパも魚目のカッパも涙を流しながら頼

んだところ、 「ならば、これから一雨降らせてやるから仲直りの証に青方の

カッパと魚目のカッパは、毎年嫁のやり取りしをして仲よく暮らせよ!」と雷様

が言ったので、 「雷様の言う通り何でも致します!」とカッパ共は約束をした

のであった。 すると、一天俄かにかき曇って、稲妻がピカ!ピカ!ピカ!ピカ!と

地上まで届いかと思うと、滝のような大雨が降り出して、山も川も田んぼも

水が一杯になって流れ出し、カッパ共も元気になったそうだ。

 その後、毎年、青方と魚日のカッパは、日照りが続いたり人間様が田植をす

る前には、嫁取りの祝言を行って大雨を降らせたので、山の木はすくすくと育

ち、農業を営む村人からは「カッパも役に立つな−。」と喜ばれたそうだ。

 この話は、青方と魚目の境界にある峠が、「鵜の声峠」と呼ばれていた時代

に、青方村と魚目村との間に争い事が起こった時、この峠付近で、刀や竹槍

で折り合いの喧嘩があったとされているが、その事件がカッパの伝説となった

ものと思われる。そして、この「鵜の声峠」には、今でもこの時の争いで死ん

た者を弔ったとされる高さ四尺(一・二メートル)位の自然石による供養碑が

あるということです。

                    (青方の山中さんの話です)


                               上五島町 民話 カッパ物語  より