かとっぽ

     人間から騙されたカッパ    Home 


 三日の浦川は、上流の佐野原から流れる川と桂山から流れる川が途中

で合流しており、上五島 (中通島) でも大きな川である。

 その川があるために、昔から三日の浦、桂山・佐野原地区は町内でも

有数な穀倉地帯であったので、住民は農業を主体としながら木炭を生産

したり林業によって生計を営んでいた。

 この三日の浦川は、山の谷間を縫うように流れているので、多くの沢

(水が溜る所)があり、そこにはアユ、ハヤ、川エビ、ウナギ、カニな

どが生息していたので、昔の子供にとっては格好の遊び場となっていた。

 これからの話は昔むかしの話である。 昔の田植は、現在のように耕

運機や田植機がなかったので、一切が手作業であり、田植ともなると、

隣り近所や親戚の者が協力して作業をしており、そのためにまだ歩けな

い子供や乳飲子はホポロ(芋や野菜を運ぶために藁で丸く編まれた農具)

の中に寝かせられたり、七、八才以上の子供は田んぼの中に稲の苗を配

ったりしたので、それこそ猫の手も借りたい程の忙しさであった。

 ところが、ある年の田植の時であった。 その日、田植が終ったのは

午後六時頃であったが、加勢の者が夕食をすませて帰ったあとに、喜助

の三男で十二才になる安市が居ないことに気付いたのである。

 家の者はどこかで遊んでいるものと思って、気にはしていなかったが

夜になっても帰らないので、隣り近所や親戚の家を探して回ったけれど、

安市の行方はわからず、父親の喜助は村役衆に安市探しを頼み込んだの

である。 翌日になると、朝早くから村役衆は半鐘を叩いて村人を集め、

 「実は、喜助の息子の安市が、昨日の晩頃からおらんようになった。

おそらくカッパに騙されて連れて行かれたもんと思わるいから、五・六

人が一組になって川の沢や山ん中を探してくれんか…。」と頼んだ。

 五人一組となった四十人位の村人は、それぞれに別れて、鐘や太鼓を

打ち鳴らしながら「安市よ−、どこにおいとか−。居たら返事をしろ!」

 「安市よ!、安市はおらんか−。」と大声で叫びながら、三日三晩探

したけれども安市は見つからなかった。

 ところがその晩、探し疲れてウトウトと寝ていた父親の喜助の枕元に、

山の神様が現われて、「喜助よ、安市はカッパから隠されているぞ、場

所は佐野原の川の渕の杉の大木がある付近を探してみよ!その場合、ま

ずカッパをおびき出さないと安市のいる場所が分らないから、村で一番

相撲が強い者を連れて行き、カッパと相撲をとらせて、カッパを負かし

てから安市の居る場所を尋ねてみよ!」とお告げがあったのである。

 四日日の朝、村人は村一番の力持ちで相撲が強い吉太を連れて山神様

のお告げがあった場所に行ってみると、そこには三百年を越えたと思わ

れる杉の大木があった。 そこで吉太は、「このあたりに隠れているカ

ッパ共よ!俺は村で一番相撲が強い吉太であるぞ!相河んカッパも青方

んカッパとも相撲ば取ったばってん、俺に勝ったカッパは一匹もおらん

じゃったぞ!お前が強かなら出て来て俺と勝負ばしてみろ!」と大声を

あげて叫んだのである。すると、川の岩かげにかくれていたカッパが、

ヒョロ、ヒョロ、ヒョロと現われたのである。

 これを見た吉太は、「俺と相撲ば取るのはお前か。四尺(1.2メート

ル)もなかお前が、六尺(1.8メートル)もある俺に勝つわけがないか

ら早う安市を渡せ!」と言うと、「何ば言うか。体はチビでも俺はこ

のあたりのカッパの中の大将で横綱だぞ。俺に勝てば安市は返してや

るから早く向って来い!」と自信満々に言い返したのであった。

        

 そこで吉太は、 「人間が相撲を取る時は体に何も持ってない事を

見せるために、先ず四股(シコ)を踏んでから相手をうち、両手を広

げて頭を下げておじぎをしてからはじまるが、お前はそんな作法を知

っているか!」と尋ねると、「そんなことぐらい知ってるばい。早う

相撲ばとろうや!」となって、吉太とカッパは相撲を取ったところ、

カッパは簡単に負けたうえに手が抜けてしまったのである。

 カッパが負けたのは、四股を踏んだ時と、おじぎをした時、頭の皿

の水がこぼれてしまったので、神通力も力も無くなってしまったから

であった。 相撲に勝った吉太は、 「さあ、俺が勝ったのだから約

束通り安市を返せ!」と言うと、カッパは杉の大木がある繁みの中か

ら安市を連れて来て、 「吉太おんちゃん、子供は返したから俺の手

も返してくれんか。」と言ったが、 「この手は、お前達カッパがい

たずらができんように三日の浦の山の神様に供えて祈願するから、そ

れまでは返すことは出来んばい! ただし、我々の祈願が終ったら勝

手に取りに来てよかばい!」と吉太は言って、安市を連れて帰ったの

である。翌日、村人達は山の神様のお告げによって助けてもらったお

礼に、御神酒や紅白の餅などを供えて村人の無病息災を祈ったとされ

ているが、祭りが終わった翌朝、山の神様の祠に行ってみると、カッ

パの手は無くなっていたと伝えられている。 山を支配する山の神は、

普通山の中の大木に注連縄(しめなわ)が張られていたり、石の祠に祀

られているが、この地、三日の浦においては、山の神様は大山祗神社

と呼ばれて村の鎮守様となって祀られている。

(三日の浦の鳥山さんの話です。)

                               上五島町 民話 カッパ物語  より