かとっぽ

     相河の徳一とカッパ        Home


 昔、相河郷に三十軒位の人家があった頃の詣であるく徳市さんとカネ

さん夫婦は、人里はなれた相河川の上流に住んでいた。

 夫婦は田んぼや畑が近くにあったので米や麦や芋や野菜を作ったり、

徳市さんは、時々、相河川のウナギやアユを獲って幸せに暮らしていた。

ある日、徳市さんはドンザ(昔、百姓や漁師が寒さを防ぐために付け

た着物)を着ながら、「カネよ、川の魚ばかりでは飽きがくいけん、今

日は相河崎まで行って海の中ん魚ば釣りにいってくいけんなー。」とい

って家を出たので、妻のカネは、「正月も近づくけん、サヤンドン(幸

木)に飾るごちよけい(沢山)釣ってこんかなよ!」といって送り出し

た。 この二人の話を聞いていたのが、相河川のカッパであった。

 その日は、冬にはめずらしいよか天気であったので、カネさんは洗濯

が終わると、一人で昼飯をすませてからひと休みした。

           

 冬の日は短いので、二時頃になると、カネさんは夕食の仕度にかかり

ながら、「今日はどがんな魚が釣れたじやろか……。」と考えておった。

 ところが、そこへ徳市さんが手には何も持たずに疲れきった姿をして

帰って来たので、「あんたよ、魚は一匹も釣れんじゃつたんか!」とカ

ネが尋ねると、「今日は天気が悪かったけん、一匹も釣れんじやつたよ!

俺は腹が減ってたまらんから早う飯ば出せ!」と言うので、「でもお前

さんは弁当ば持っていったじゃないか!」と答えると、「そん弁当ば海

の中に落としたけん戻って来たったい!文句ば言わずに早う飯ば食わせ

ろ!」と言うので、カネが飯を出すと、「ナスビの漬物んも洒もあった

ろうが−。それも出せよ!」と言って、あるだけの飯や酒を食ったり飲

んだりしてしまったそうだ。そして、徳市は、「俺は今から畑の野菜を

見に行ってくるからな!」と行って出ていってしまったので、「今日の

あの人はおかしかな−。あげん人間じやなかったとに−。」とカネが思

っていたところに、夫の徳市が帰ってきて、「カネよ、いま帰ったぞ。

見てくれ、今日は大漁で鯛とチヌの魚とで十匹は釣れたぞ。腹が減った

けん、俺が刺身を切ってる間に早よう飯の仕度をせれよ!」と言いなが

ら、刺身を切り出したそうだ。 カネはどう考えても不思議に思って、

「あんたは、二時頃帰って来て、飯もナスビも食べ、酒も飲んだんじや

なかったとかな!」と尋ねると、「何ば馬鹿なことば言うとか、俺は一

日中魚ば釣っていたから、この通り鯛の魚もチヌの魚もあるし、釣道具

も弁当箱もあるじやろが。今日のお前はおかしかぞ′・カッパにでも化

かされたんじやなかとか。」 と言われてみると、カネは二時頃帰って

来た徳市が飯を食った時にそわそわしていたことと、畑に行くといって

家を出て行く時の背中が、水に濡れていたことを思い出して、カッパに

化かされたことに気付いた。「あん畜生カッハの奴め、よくも騙したな!

あんた、どがんしたらよかろうか・・。」と徳市に言うと、「カネよ!

明日、俺が敵を取ってやいけん、そう腹ば立てんばって早う寝れ!」と

言って、その晩は残り飯と刺身を食って床についたそうだ。

 翌日は、よか天気になったので、徳市が朝早くから野菜

を植えるために畑を耕していると、いつの間にか四、五匹

のカッパが出て来て、徳市が鍬で畑を耕すと、カッパ達も

畑を耕す真似をしたり、また、腰を伸ばして休むと、カッ

パも休む真似をして、ギェ!ギェ!ギェ!と鳴いて笑って

いたそうだ。 そこで、徳市は「よし!今度、俺が腰をか

がめて畑を耕すと、それをカッパが真似すれば、あ奴らは

頭の皿の水がこぼれて神通力がなくなるから、その時に捕

まえてやるぞ!」と考えたのであった。 そして、徳市は

腰をかがめて畑を耕すふりをしたらカッパも真似をしだし

たので、この時とばかりに、後をふり向くと同時に十メー

トル位の所にいたカッパに向かって走っていって、一匹のカッパを捕ま

えると、すぐさま用意していた縄でがんじがらめに縛り上げて、家の前

の杉の木にくくりつけてしまったのである。 翌日もよか天気だったが、

昼頃になると木にしばられていたカッパは水が欲しくなり、「カネおば

よ!水ば少し飲ましてくれんか。」と頼むと、「わしゃ知らんばい、人

様を騙しおって、よう頼まるいことのよ。頼むなら徳市おんちゃんに頼

め!」と断られた。 その日も夜になったので、徳市夫婦が寝ようとし

ていると、「徳市おんちゃんよ、カネおばさんよ!もう絶対にいたずら

も騙したりもせんけん勘弁してくれんかな−。徳市おんちゃんの言うこ

とは、何でも聞くけん助けてくれんかな……。」といった泣き声が何度

も何度も聞こえるので、雨戸を開けてみると、五、六匹の仲間のカッパ

が集まって手を合わせて拝むように頼んでいた。 これを見た徳市さん

は、「よしわかった。これからは、いたずらもせず、わしの言うことも

聞くというならば勘弁してやる。 そのかわりに約束として、毎日十日

には相河川のウナギとアユを持ってくることが出来るか・・。」と念を

おすと、カッパは声を揃えて、「絶対に約束は守ります。」と答えたの

で縄を解いて放してやったそうだ。 それからは毎月十日になると、徳

市さんの家の前の杉の木には約束通りウナギとアユが吊るされていたと

言うことである。

              相河の佐々野さんの話です。

                上五島町 民話 カッパ物語  より