かとっぽ

    中野のいたずらカッパ     Home


 青方から奈摩に行く途中には水田が多い字中野がある。 この地区の

中野川の本流と山田山からの支流の合流地に水神の「ナガノヒメノミコ

ト」を祀る中野様があるが、青方神社々誌によるとその建立は今から百

四十年前の安改元年卯年となっており、この付近の川は水深も深く川幅

も広かったので昔はカッパが多く住んでいたと伝えられている。 

 カッパも、人間の子供のように仲間が集まると、ワイワイ騒いだりは

しやいだりして、田んぼや畑の区別もなく走り回り、また相撲を取った

りするので、収穫前の稲や麦を踏み倒したり、蜜柑や柿や梨の実などを

食べもしないのに食い荒らしたあげく、村人が田んぼや畑に行くと木の

枝にぶら下がったり、岩の上で昼寝をしたふりをして、「ケッ!ケッ!

ケッ!ケッ!」と人間を馬鹿にしたように鳴いて笑っていたそうだ。

 そして、時に村人が子供を田んぼに連れて行くと、いつの間にか子供

がカッパに騙されて、時々いなくなることが度々続いたそうである。

 そこで、村人は「こ奴らカッパをどうにかせんと百姓は出来んごちな

る」と思っていたところ、ある時、大変なことが起きたのである。

       

 それは、中野地帯に田んぼを持っていた村人が、今年は豊作まちがい

ないと喜んでいたところ、中野に行ってみると、重太郎と貞助と甚吉の

他に三、四人が所有する田んぼの水が無くなって、稲が枯れてしまって

いたのであった。 どうした事かと思って調べてみると、カッパがドジ

ョウを捕るために田に水を引き入れる水口を川の小石で塞いでいたから

である。 そこで重太郎は、「このままにしておくと、中野ん田んぼは

全部作られんごちなるからカッパ共を懲らしめてやろうや。」と皆と相

談した結果、村役衆に頼んでカッパがいたずらが出来ないように、川の

近くに石祠を造って水神様を祀り、椿の実から油をしぼり取った油粕を

中野川の上流から流したそうだ。

 すると、カッパが主食としていたウナギやアユ、田ニシ、川エビなど

の川魚が油に酔って、ぷかぷか浮いて死んでしまったそうだ。

 困ったのはカッパ共であった。何日も何か月も川魚が食えないので栄

養不足となり、体は痩せてしまって、走る力も歩く力も無くなってしま

ったそうだ。 ところがある日、重太郎が田んぼで一服タバコを吸って

いると四、五匹のカッパが重太郎の前に出て来て、「重太おんちゃん、

これからは人間様を騙したり田畑を荒らしたりするようないたずらはせ

んから椿の油を流すことだけは止めてくれんか…。」と手を合わせて拝

んで頼んだそうだ。 重太郎は知らんふりをしていたが、しばらくして

から、「よし!わかった。お前達も食い物が一番大事なことがわかった

か……でも、お前達カッパは信用されんけん、川の中から一番大きな石

を持って来て水神様の横に据えて、その大石が腐るまで人間を騙したり

農作物には絶対に手をかけたりすいなよ!」と約束をしたそうである。

 その後、カッパは約束を守っておとなしくなったが、もともといたず

ら好きなカッパは退屈でたまらず、人間が見てない時には大石に向かっ

て、「早よう腐れ、早よう腐れ。」と言って、小便をかけたそうだが、

石が腐るわけがなく、水神様の側に今もその石はあるそうだ。

   

  

                 青方の前田さんの話です。

                上五島町 民話 カッパ物語  より