次郎じいさん             Home

 明治のはじめ頃、小河原に次郎衛門という、とても力の強いおじ

いさんが住んでいました。文明開化の時代なので、殆どの人がチョ

ンマゲを切り落としていましたが、このおじいさんだけは、「俺ん

頭や俺んもんじゃけん、切ろうが切るまいが俺の勝ってたい。」と

言って、チョンマゲを切ろうとしませんでした。そして、その赤茶

けたチョンマゲを水でなであげ、八巻をして山や海に出かけたもの

です。 また四斗樽を片手で持ち歩き、枕は四寸角の長木枕でなけ

れば絶対使わず、そばがら

やもみがらの枕を使う人に

は「お前どんが頭や豆腐か」

と言って」、威張っていま

した。それにまた大変な働

き者で、一枚でも多くの田

や畑を開きたいと思い、宇

戸ごえの川沿いにある荒れ

地を開墾し始めました。しかし一枚の荒れ地にしかし取りかかって

からは、大きな石がゴロゴロ出てきてなかなかはかどりませんある

日のこと、持ち前の怪力で大きな石に取り組みましたがびくともし

ません。 「何とかして、今日中にこっば片ずけんば!」と頑ます

が、あたりはくらきなっていくばかりです。「こりゃ困ったたなー。

もう日も暮れたばい。」と辺りを見回すと、いつの間に出てきたの

か黒いモノが四,五匹動いているのが見える。大将と思われる一匹

が近付いてきて、「お前が村で一番の力持ちちゅう話やばってん、

そん石ば動かすこっも出来んとな。俺がのけてやろうか。しかしそ

っにゃ条件のある。相撲ば取って、おっに勝ったら

ん話しじゃ、どうじゃ、すっかー?」力自慢の次郎

衛門は、こっがガータロじゃな、話しにゃや聞いち

ょたばってん、見っどや初めてじゃと思いながら、

「よし、相手に不足やなか。かかって来い!」 一

日中働いて腹は減るし疲れていたが、村一番の力持

ちと言われる手前、ガータロ如きに見くびられてたまるかと勇気を

出して、両足を踏ん張った。 しかし相手は体中ヌルヌルしていて、

つかまえても、つかまえても滑って掴まらない。反対に足を取られ、

転がされて負けてしまった。「なーんな、お前や村一番の力持ちち

いうばってん、弱かじゃん、なんなこんざまや。」と言ってガ−タ

ロはゲラゲラ笑います。次郎衛門は悔しさをこらえながら、「そん

ならまた明日やろうで!」と約束して家に帰った。すると母親が、

「今日やざーまに遅かったな。どがんしたっな?そがん泥だらけに

なってしもっかっに。」と心配して聞くと、次郎衛門は今日あった

ことを全部話し、「どがんかしても勝つたんばならん!よか知恵や

なかろうか?」と相談した。「ガータロがヌルヌルしちょどなら、

こっちゃ灰ば手につけていったらどがんか。」「なるほど、そっや

よか考えばい。」でも初めは灰をつけていくと、相手に気づかれる

と言うので、仏壇の灰を紙に包んでチョンマゲの中に隠して出かけ

る事にした。 次の日の夕方になってガータロが現れ、相撲が始ま

った。 次郎衛門は、素早く隠していた灰を手に着けると、ガータ

ロの腕を掴まえ、持ち前の怪力で思いっきり引っ張ったからたまり

ません。ガータロの腕が付け根から「ズボッ」と抜けてしまった。

次郎衛門は、「今日は勝ったぞー」とその腕をぶら下げながら、意

気揚々と帰ってきた。

ところが、その晩からガータロの子供がやってきて、「腕ば返して

くれ、腕ば返してくれ!」と騒ぎ立てる。それが毎晩続くので夜も

ろくに眠れない。「そんなら、一本だけ返してやろう。」と言うと、

「二本とも返してくれんかなー。」と言って聞かない。「そんなら

条件ば出す。そっばちゃんと守るとなら、返してもよか。」「はい

はい、どがんな条件でも聞きますからぜひ返してくれんかな。」と

言うので、次のような条件を出した。1、かんかん様という水神様

の青石が腐れるまで、この郷の者に決して悪さやいたずらをしない

こと。2、この郷の子供達が、海に溺れないように守ること。ガー

タロはこの二つの条件を固く守ることを約束して二本の腕をもらい

受けて帰っていった。それから、ガータロは毎晩田んぼ造りを手伝

うようになり、瞬く間に三枚の立派な田んぼが出来上がった。それ

からというもの、小河原では海で溺れる人がいなくなったと言われ

ている。 ただ条件の第一だった「青石の腐れるまで、悪さやいた

ずらをしない」という約束はよほどこたえたと見えて、その青石が

早く腐れるようにと、毎晩糞や尿をかけに来たということです。

                         有川町郷土誌より