かとっぽ
河童の手 Home
今、役場の建っている所は、昔、江口甚右エ門正利と言う有川の |
名主の屋敷があった所である。屋敷のすぐ裏は大川が流れていて、 |
海の潮が満ちてくると川の流れとぶつかり合い、川底が深くなり、 |
何時も青々とした色が淀んでいて | |
[おかめはんず」と呼んでいた。 | |
子供達が川で遊んでいると、「こ | |
ら!!おかめはんずに行ったな。 | |
尻ばとらるっぞ。」と言って注意 | |
していた。「おかめはんず」に | |
は、いたずら河童が住んでいた。 | |
五月の雨がしとしとと降り続いた | |
ある日、江口家の旦那様が夜中に | |
便所に行ってしゃがんだ時、突然 | |
お尻を撫でられた。気の強い旦那 |
様がその手をむんずと握り、よく見るとその手の間には水掻きがあ |
って毛が薄く生えている。 とっさに河童の手と判断して絶対逃が |
すもんかと、旦那様が河童の手をつかみ一生懸命引っ張ると、河童 |
も負けずに引っ張る旦那様が最後の力を振り絞って「エーイ!」と |
引っ張った時、「ぎゃっ!!」と言う声と共に、河童の手が抜けてき |
た。旦那様は部屋に戻って、河童の手を大切に箱に納めたが、なか |
なか寝付かれずにいると、戸外から声がした。「旦那様、旦那様、 |
もう人間様にいたずらは絶対せんけん、腕ば返してくだされ。」 |
「こら!!お前は今まで悪か事ばっかりしっちょった罰に庭の青石が |
腐るんまで、腕は返さんぞ。」と叱り飛ばした。 夜が明けて庭の |
青石を見ると、石の上に糞と小便がかけられていた。「ははーん。 |
青石の早く腐るごと、やったなー。」と思った。 | |
それから毎日、夜中になると「腕ば返してくださ | |
れー。」と言う声が聞こえ、朝には必ず青石の上 | |
に糞と小便がかけられていたという。でも何時ま | |
でたっても青石は腐れなかった。正利翁社の境内 |
に青石もが据えられているが、当時の青石ではなかろうか。